Gorge再入門! ”ゴルい”耳の開拓ガイドブック
本記事はGorge Advent Calendar 2014 8日目の記事です。
Gorge Advent Calendar 2014 - Adventar
はじめに
Gorge(ゴルジェ)が日本で盛り上がった一般的に"Gorge Explosion"と言われる2012年から、間もなく3年が経とうとしています。さまざまに進化・発展・退化・没落を行いながらひっそりとシーンの片隅に生存し続けているGorgeですが、最近こんな声が聞こえてきています。
「いろいろなものがあり過ぎて何がGorgeなのか分からない」
「内輪で盛り上がっているみたいで知らない人から見て分かりにくい」
「何でもかんでもゴルいって言えばいいって思ってんじゃねーの」
「今だったらゴルジェとか作って出しますってやっても、出る頃には多分、完全に終わってるんで」
時間が経つうちにいろいろな情報が行き交ううちに、そもそもGorgeとは何なのか、ということが薄れていっていくわけです。
いろいろとネット媒体に残っている情報はあるわけですが、それはおググりいただくとして、この機会に一度、入門編の記事を書こう、と思い立った次第であります。
ということで、「Gorge再入門! ”ゴルい”耳の開拓ガイドブック」と銘打った本記事。自分のGorgeに出会った当初の経験を交えて、さまざまな過去のゴルい音楽を紹介しながらGorgeおよび「ゴルい」という音楽の聴き方のガイドになるようなものを目指したいと思います。
なお、今回は入門記事という観点から、Gorge Explosion2012年以前の過去の"ゴルい"音楽を中心に、その中でも有名なトラックに絞って紹介します。これ以外の音楽については有志によって黙々とコンパイルされ続けているRoots Gorge Archivesをご参照ください。
Roots Gorge Archives on Pinterest | 122 Pins
また2012年以降のGorgeの広がりについては、その加速度をまとめるのが非常に困難であるので、ぜひご自身でお調べいただければと思います。
「耳」の開拓
さていよいよ本題、の前に少し前置きです。いろいろな音楽を聴いている方にとっては伝わるかもしれませんが、ふとした何かのきっかけで「耳」が開拓される、という瞬間があると思います。
それまで何とも思っていなかった、または嫌いだったような音楽が、何らかのきっかけで、そして理屈抜きに、すごく魅力的に聴こえだしたり、まったく別の音楽にように聴こえ出す、というあの事象のことです。
「回路が開く」「補助線が引かれる」とか言葉はいろいろ当てはめようはあるのですが、そのように音楽が違う様相を伴って聴こえだして音楽の魅力にさらにハマっていく、という覚えがある方は多いのではないでしょうか。
自分の音楽リスニング史を振り返るとそのようなことは何度か経験しているのですが、中学生の頃に出会った「テクノ」というものがまさにその典型でした。
中学生の頃当初はBOØWY大好き、布袋寅泰氏リスペクトという典型的な田舎(北九州市小倉)のギター少年だった布袋氏のファンクラブに入っていたことは秘密)のですが、同級生にかなり尖ったリスナーの中村君という奴がいました。彼が「電気グルーヴのオールナイトニッポン」を聴いてテクノに衝撃を受けて「こういうんがいまやばいんよ」(方言)みたいに80分パンパンに詰まったテープ(AMラジオの録音)をいろんな人に貸して布教活動していました。
▲hanali 14歳の図
で、私もそれを借りることに。「テクノってあれでしょ? 布袋が最近導入したっていうピコピコ~ってやつ」「ギターが入っていない音楽はちょっとなぁ」「ずっと同じループが鳴ってるだけやん・・・」とか全く興味なかったんですが、「いいから何度も聴けっちゃ!何度も!絶対良さが分かるけ!」という強い中村君の要望に従ってしょうがねーなみたいに聴いてるうちに・・・・。
いつの間にか頼まれていないのに無限リピートに。ほとんど覚えてないんですがHardfloorのこの曲が入っていたことだけは覚えています。「気持ちいい」とか「カッコいい」とかそういう言葉や理屈で分かる前に、何だかわからないけど何度も聴きたくなる、という体験がここでありました。「テクノ」という「耳」が開拓された瞬間を味わった後です。
「ゴルい」という耳
ということでそこから時は流れ、一気に最近の話に。私も大人になりさまざまな音楽を楽しむようになり、またそれなりにマニアックな音楽も楽しめるようになってきたわけです。
いろんな音楽を自由に楽しめるということは非常に愉快なことではありますが、人間というのは知識の蓄積によってより不自由になったりすることもあります。「あーこれはあのジャンルの曲だよね」「あの時代の影響受けてるな~」「あーこういうの前聴いたわ、流行は繰り返すんだよね」みたいになんか知ってるような気になったり、最近新しい音楽ないよね」みたいなウザ語りをしたり・・・。
まあそういうロクでもない音楽好きになりかけていたのは否定のできない事実であります。
それを覆したのがGorge、および「ゴルい」という聴き方です。
Gorgeそのもの出会いについては別の機会に記述するとして、そこから始まった「ゴルい」という耳の開拓によって一気に音楽の聴き方が変貌したのであります。
そのきっかけとなった曲がこれ。
1 Moebius-Plank-Neumuer 「Speed Display」
そしてこれ。
2 一世風靡セピア 「前略、道の上より」
Moebius-Plank-Neumuerの「Speed Display」はジャーマン・ロックの名盤1983年リリース『Zero Set』の冒頭曲で、テクノのルーツとして名高い1曲。日本版CDはケンイシイが熱い解説を書いていた覚えがあります。
一世風靡セピアの「前略、道の上より」は哀川翔、柳葉敏郎らによる男性路上パフォーマンス集団(でいいのだろうか・・)一世風靡セピアによる1984年のヒット曲
(っていま調べて書いててわかったんですがほとんどこの2曲同じ年ですね・・・)。ソイヤ!のかけ声が威勢良くて大好きです。
で、この2曲、当然のように昔から知っていたし好きだったわけですが、Gorgeを聞き始めて改めてこの2曲を振り返ってみてアレ? と思ったわけですよ。
「これってGorgeじゃない?」
Gorgeの定義は、オリジネーターとされるDJ Nangaが定めた以下の3つの条項(Gorge Public License)を満たすものです。
1) タムを使え(Use Toms)
2) それをゴルジェと言え(Say it "Gorge")
3) それをアートと言うな(Don't say it "Art")
で、Gorgeを聴いたり作ったりするうちに、まったく関係無いはずの上記の2曲の間にスッと線が引かれた瞬間があったのです。新しい「耳」が暴力的に開拓された瞬間でした。
物凄く簡略化して言えば「タム(太鼓)がドコドコ鳴ってる」っていう要素が一致しているだけなんですが、(キックとスネアではなく)そこに注目して聴くことによって、何か違うこれまでとまったく違う音楽が立ち現れてきた、というわけです。
3 うしろゆびさされ組 「うしろゆびさされ組」
という流れでこれを聴いてみましょう。アニメの「ハイスクール奇面組」のテーマとなったうしろゆびさされ組の定番曲ですね。
当時はそれまでまったく気付いてなかったのですが、このイントロのゴルさ! 非常にカッコいいですね。
という感じで、次々と今まで聞いたことのあるものが「ゴルい」という聴き方によってまったく違う音楽に聴こえてきたというわけです。
もちろんそこで鳴っている音はまったく同じです。ただちょっと違う視点・回路・耳によって聴くことで新しい音楽が聴こえてくる。
「最近新しい音楽とか無いよね」とか言っているのはまったくもって馬鹿馬鹿しい話でした。新しくないのは自分の耳だった!
ということで、ただ単に「自分の耳/聴き方にフィットする音楽が登場するのを待つ」という受身の考え方から、ガンガン自分で積極的にいろんな「ゴルジェ」「ゴルい音楽」をひっつかめて楽しんでいこう!という姿勢に変わるきっかけを掴んだわけです。
ちなみに、「そんななんでもかんでも"ゴルジェ"とか"ゴルい"て言っていいわけ? オリジネーター怒んないの?」という疑問が沸くこともあるかと思いますが、そのような問題についてオリジネーターのDJ Nangaはエレガントな解答を述べています。
「お前が"これGorgeかも"って思った瞬間、それはGorgeになる」
Think Different, Say it "Gorge"というわけです。
Gorgeを巡る旅
というわけでこの聴き方を知って非常に音楽が面白くなってきた2012年頃。前から知り合いだったuccelli氏、石井タカアキラ氏などにこのプレゼンをしたところ、見事にハマっていきました。さらにGorgeを通じて知り合ったHiBiKi MaMeShiBa氏なども合流し、さらにGorge研究が進んでいくわけです。
(ちなみに私が人に「氏」とつけるのは漫画道の影響です。どうでもいいですが!)
その中でもエポックメイキングだったのが、アニメ『AKIRA』の芸能山城組によるサウンドトラック。これも有名ですね。1988年作です。
4 芸能山城組 「Battle Againt Clowns」
実はこのサウンドトラック、Gorge以前はあまり好きではありませんでした。日本人がケチャとかガムランやる胡散臭さ、ニューエイジっぽいスピリチュアルな感じが何だかなーと思ってたところはあります。
しかしそういうコンテキストを一度置いておいて聴いてみると・・・いや順序が逆ですね。「ゴルい」という聴き方をすることによって、そういうコンテキストが切り離されて音楽を聴くことができた、というわけであります。
さていろいろ視点を変えていきます。いわゆるバンドには(普通は)ドラマーが居てドラムを叩くわけです。そしてドラムがあるからには(普通は)タムが置かれているわけです。
タムっていうのはよく考えると変な立ち位置の楽器で、ほぼ100%キック、スネア、ハットはリズムキープの要として叩かれるのですが、タムはたまーにオカズとして叩かれる、やたらでっかく鎮座しているわりに別に使わなくてもいい、という楽器です。
電子音楽のライブで、やたらでっかいシンセを頑張って持ち込んだのにほとんど演奏で使わない、みたいなものですね。
タムの立場から見れば「叩かれ待ち」をしているわけで、「いつ叩かれるのか?」というスリリングな時間が続くわけであります。ゴルジェ耳からすれば「いつタムが鳴るのか?」という「タム待ち」の時間であります。
というわけでコレ。
5 PINK FLOYD 「One of These Days I'm Going to Cut You into Little Pieces Live at Pompei 1972」
Pink Floidの1972年のライブです。やたらと壮大なイントロでジラされてタム待ちロマン。タム回しが始まったときに「キター」となるわけです。ドラムの俯瞰ショットが何度も何度も写されるのも狙っていたとしか思えませんね。
プログレは手数が多いこともあり、タムを叩きまくるゴルい曲も多いです。やはりドラマーは熟練すると、タムをフルに活用したゴルいドラミングを獲得するのでは?
というテーゼが成立するにように思わせておいて、今度は真逆のアプローチでこちら。
6 The Shaggs 「My Pal Foot Foot」
下手すぎによる新世界を切り開いたThe Shaggsの1969年リリースの曲です。
The Shaggsについてはこちらとか参照ください。
そしてこのなーんとなく茫漠とならされる居心地のなさげなタム。たぶん、ドラマーの人は目の前にならんだ太鼓をとりあえず叩くべ、くらいな感じですかね。先ほどのPink Floydの自信に満ち溢れたタムの音と比べるとまったく違う表情なんですが、これまたゴルいです。
Gorge界隈で密かに囁かれる「ドラマーは最初はその稚拙さでタムを叩き、卓越したドラマーはその熟練の極みでタムを叩く」という説。「タムに始まりタムに終わる」というフナ釣りのような格言を勝手に捏造したくもなります。
さらに古い時代をたどります。60年代でこのような曲があります。1968年リリースです。
7 Silver Apples 「Oscillations」
Silver Applesと言えば、二人組の伝説の電子音響ユニット。そのエレクトロニクスのところが注目されがちです。かく言う私もこのカッコ良さに痺れていたんですが、改めて聴いてみてこのドラミングのカッコよさ。電子音とドラムだけ、という極限までシンプルな構成で、ひょっとしてエレクトニクスはこのドラムのゴルさを際立たせるために存在してるんじゃないか? と思わせる見事な怪作であります。
あらゆるところにゴルジェは存在する
と言い出したのはHiBiKi MaMeShiBa氏でありますが、正直それは言い過ぎです。が、さまざまな音楽の中の、その一部にそっと毒を仕込むように、したたかにゴルジェは存在することは事実です。
昔のトラックへの旅を終えたところで、ここでぐっと最近に時代を戻してコレを聴いてみましょう。
8 Christian Vogel 「Mad Sex」
恐ろしく打撃音だけで成立しているこのサウンド、これまで聴いていただいた方は「ゴルい!」と叫ばざるをえないのではないでしょうか? 1996年リリースの不朽のNo Futureサウンドです。
そろそろ皆さんにも「ゴルい」耳が開拓されてきたころかと思います。まだまだ紹介したいサウンドはあるんですが、自分で探求するのが音楽の楽しみ方の1つです。
クライミングでは「そのルートについての情報を一切知らずに1度で登り切ること」を「オンサイト」と言ってもっとも価値があることとされています。そのため、登る前にふとしたきっかけで情報を知ってしまう(「あのホールド使うんだよ」とか「あそこに足を置くんだよ」とか)ことは、「オンサイト権を失う」といって悲しむべきことです。
オンサイト権を奪うことはしません。ぜひ自分の耳さぐり、手さぐりで、いろいろな音楽から「ゴルい」を発見してみてください。
最後に2つだけ、最近のトラックで非常に重要なものをそっと置いておきます。
9 Shackleton 「Let Go」
10 Cut Hands 「Black Mamba」
それぞれの音楽については深くはここでは触れません。ぜひご調べください。
終わりに
というわけで、ゴルい10作を紹介したところで本稿は終わります。まだまだ紹介したい音源はあります。が、このガイドブックをお付き合いいただいた貴方に、「ゴルい」という聴き方は確実に備わっていることかと思います。ぜひその道標を辿り、さらなるゴルい音楽を見つけてきていただければと思います。
また、2012年以降の音楽に関しては、ちょうど2014年12月に2つの大きな動きがありました。
"Knife Ridge Breakin'" One Push by Yuko Lotus
「今」のGorgeの動きを捉えるのに重要なリリースとなっていると思います。ぜひ上記の音をチェックいただければと思います。
以上、ご清聴ありがとうございました!